2008年01月07日
短編小説①
mixiで遊び半分に掲載した短編をココにも載せてみます。
ご感想等あればコメントにお寄せ下さい。
シリーズ化の予定は、未定(笑)。
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私が生まれたのは大正5年。
ロシアのラスプーチンが暗殺された年に生まれた。
あの頃は良かった、遠い記憶の中で当時の映像は今でも色あせることなく残っている。
結婚し、子供を産み、戦争で亭主と子供を全員失った後、私は病気で死んだ義理の姉の子供を引き取った。
一生懸命育てた。
その子はとても素直に育ってくれた。
やがてその子も結婚し、私に孫も出来た。
いつの頃だろうか。
記憶がふと切れることが多くなった。
何かを思い出せないというよりは、経験すらしていないと言う経験の欠如、喪失感を味わうようになった。
今日がいつかも簡単には認識出来なくなった。
何かを思い出すというのは容易ではなかった。
最近の事柄に関しては、全く駄目だった。
昔の事なら良く覚えていると言うのに。
自分が情けなくなってきた。
情けなくなるどころか、怖くなる事もあった。
家を出ると帰れなくなる事もあった。
服には、孫が縫ってくれた記名章があって、そこには私の名前から住所と電話番号が書かれていて、それに1,000円札がお守りとして入っていた。
家を出ると帰れなくなり、道で泣いていると、お父さんやお兄ちゃんが助けに来てくれるんじゃないかって思ったりしたけど、本当にそう思っていたのかどうか私の記憶力からすると怪しい。
***********
我輩は犬である。
かの夏目漱石は『吾輩は猫である』と言う名作を1905年に発表している。
あの猫と違って、我輩は名前も知ってるし、どこで生まれたかも知っている。
我輩は1995年に生まれた。
生まれた場所と我輩の名前をここで言うつもりは無い。
我輩は無意味な事を説明するのが嫌いなのだ。
我輩はネコ目イヌ科イヌ属に分類される。
学名は Canis lupus familiaris。
近年では犬をタイリクオオカミの一亜種とする説が有力らしい。
我輩は飼い主に大事にされている。
生まれてから今までもこれからもずっと。
我輩は目が殆ど見えない。
生まれつき目は良い方ではなかったけれど、年を取ってからは益々目が見えない。
我輩は外に居る事の方が多い。
家に居る犬より短命の傾向があるらしいが、我輩はどうなのか知らない。
老犬と言われるようになってから寝ている事の方が多くなった。
あれは我輩がブラブラと歩いていた時だった。
路地に老婆らしい女性がうずくまって泣いていた。
我輩の姿をその老婆が見ると、その老婆は我輩を無視した。
我輩がそこに存在しないかのように無視した。
我輩は吠えようかとも思ったが、その考えは適正ではないと判断し、老婆の下へゆっくりと歩み寄った。
老婆は寒さに震えており、我輩の体に抱きついてきた時には驚いたが、我輩の体で暖を取っているのだろうと思い、それも構わないと判断し、そのままにした。
***********
私のお婆ちゃんが帰ってこない。
たまに帰ってこれなくなって、泥だらけになったり、傷だらけになったりして警察の方に発見されたり、近所の方に保護されたりする事が度々あった。
私はお婆ちゃんが好きだ。
昔、一緒に寝たり、お風呂に入ったりしたし、入学式とか卒業式とかには必ず出席してくれたし、学生時代やOLになってもお弁当を作ってくれたりしたし、毛糸の編み方を教えてくれたし、彼氏が出来た時にはお母さんよりも先にお婆ちゃんに教えたし。
そのお婆ちゃんが認知症になったって知った時には、私は泣いた。
最近、お婆ちゃんは優しい表情になった。
もともと優しい人なんだけど、表情が前にも増して優しくなった。
それと同時に、どこかぼんやり遠くを見つめるようにもなった。
昔はこの辺の土地には何も無くて、大きな桜の木しかなくて、そこで戦争で死んじゃった旦那さんと良くデートしたり、プロポーズもそこでされたってお婆ちゃんが昔良く言っていた。
私は、お婆ちゃんがたまにフラッと外に出てってしまうのは、その桜の木を探してるんじゃないかって気がしてならない。
大好きだった旦那さんの面影が残ってるだろう桜の木を求めて、さ迷ってるんじゃないだろうか。
そうお母さんに言うと、居なくなったお婆ちゃんの事が心配で泣き腫らした真っ赤な目で睨まれた事がある。
まずった、言ったタイミングを間違えたらしい。
**************
気が付くと朝になっていた。
横には毛むくじゃらのワンちゃんがいた。
ワンちゃんの毛皮が温かく、私はそれが気持ちよく、寝てしまったらしい。
女が路地で寝るだなんて、そう思うといけない事をしてしまった事で恐くなった。
家がどこか分からなくなってしまった。
ワンちゃんとしばらくここに居ようと思った。
***************
お婆ちゃんが発見された。
警察の方が発見して下さったらしい。
何でも黒い毛の大きな犬がたまたま居合わせたらしく、その毛皮にくるまるように抱きついていた所を発見したらしい。
お婆ちゃんったら、警察官の方に対して、はしたない所をお見せしてしまって何ともお恥ずかしいと顔を真っ赤にして謝ってたんだろうな、そう想像すると可笑しかった。
その大型犬もお婆ちゃんと同じで捜索願が出ていて、見つけた時には飼い主の人が泣きじゃくって居たらしい。
何とも不思議な取り合わせ、不思議な騒動だったけれど、もうすぐお婆ちゃんが帰ってくるから、お風呂を沸かしておこう。
お婆ちゃんの大好きなおいなりさんも一杯作ったし♪
お婆ちゃん、今度の彼氏はイケメンだよ!
今度、会わしてあげるね。
きっと気に入ると思うよ。
だって、戦争で亡くなった旦那さんとどこか面影が似てるんだもの。
お婆ちゃん、その内桜の木が見つかると良いね♪
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以下、解説。
昨年末、茨城県のひたちなか市の公園内で認知症の女性が30時間振りに保護されたって言うニュースはご存知でしょうか?
( http://www.sanspo.com/shakai/top/sha200712/sha2007120800.html )
何と行方が知れなかった犬に寄り添うような形で発見されたとか。
テレビで見た時は、おそらく飼い主だった女の子なのでしょう、犬を見て泣きじゃくっていた映像が印象的でした。
暗いニュース、耳を覆いたくなるようなニュースが多い中、ボクはこの報を聞いて、ホッとしました。
何とも心が温まるようなニュースだなって。
都心の郊外、この時期は夜にもなれば気温が氷点下になる事も珍しくなく、老婆の凍死の危機を救った一匹の老犬が居たと言う偶然の奇跡、都心の近く(と言っても遠いですが)に実際に起こったファンタジーが気になってしまって。
その老婆と老犬、周辺の環境や家族は一体どんな思いで時間を過ごしたのだろうかと思うと、思わず自分なりに物語を書きたくなりました。
お気に召しましたか?
夜勤明けで意識がぼんやりとした中で書いたものですから粗が目立ちますが、どうにか読めるものにはなってるかなと・・・・・。
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近頃、ネタ切れ感が漂う当ブログ(笑)。
ネタ切れを防ぐ、苦肉の策のmixiからのネタ転用
今後もネタ切れしたらmixiから転用するかも・・・・・・・・・・。
『桜の木の下で』
私が生まれたのは大正5年。
ロシアのラスプーチンが暗殺された年に生まれた。
あの頃は良かった、遠い記憶の中で当時の映像は今でも色あせることなく残っている。
結婚し、子供を産み、戦争で亭主と子供を全員失った後、私は病気で死んだ義理の姉の子供を引き取った。
一生懸命育てた。
その子はとても素直に育ってくれた。
やがてその子も結婚し、私に孫も出来た。
いつの頃だろうか。
記憶がふと切れることが多くなった。
何かを思い出せないというよりは、経験すらしていないと言う経験の欠如、喪失感を味わうようになった。
今日がいつかも簡単には認識出来なくなった。
何かを思い出すというのは容易ではなかった。
最近の事柄に関しては、全く駄目だった。
昔の事なら良く覚えていると言うのに。
自分が情けなくなってきた。
情けなくなるどころか、怖くなる事もあった。
家を出ると帰れなくなる事もあった。
服には、孫が縫ってくれた記名章があって、そこには私の名前から住所と電話番号が書かれていて、それに1,000円札がお守りとして入っていた。
家を出ると帰れなくなり、道で泣いていると、お父さんやお兄ちゃんが助けに来てくれるんじゃないかって思ったりしたけど、本当にそう思っていたのかどうか私の記憶力からすると怪しい。
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我輩は犬である。
かの夏目漱石は『吾輩は猫である』と言う名作を1905年に発表している。
あの猫と違って、我輩は名前も知ってるし、どこで生まれたかも知っている。
我輩は1995年に生まれた。
生まれた場所と我輩の名前をここで言うつもりは無い。
我輩は無意味な事を説明するのが嫌いなのだ。
我輩はネコ目イヌ科イヌ属に分類される。
学名は Canis lupus familiaris。
近年では犬をタイリクオオカミの一亜種とする説が有力らしい。
我輩は飼い主に大事にされている。
生まれてから今までもこれからもずっと。
我輩は目が殆ど見えない。
生まれつき目は良い方ではなかったけれど、年を取ってからは益々目が見えない。
我輩は外に居る事の方が多い。
家に居る犬より短命の傾向があるらしいが、我輩はどうなのか知らない。
老犬と言われるようになってから寝ている事の方が多くなった。
あれは我輩がブラブラと歩いていた時だった。
路地に老婆らしい女性がうずくまって泣いていた。
我輩の姿をその老婆が見ると、その老婆は我輩を無視した。
我輩がそこに存在しないかのように無視した。
我輩は吠えようかとも思ったが、その考えは適正ではないと判断し、老婆の下へゆっくりと歩み寄った。
老婆は寒さに震えており、我輩の体に抱きついてきた時には驚いたが、我輩の体で暖を取っているのだろうと思い、それも構わないと判断し、そのままにした。
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私のお婆ちゃんが帰ってこない。
たまに帰ってこれなくなって、泥だらけになったり、傷だらけになったりして警察の方に発見されたり、近所の方に保護されたりする事が度々あった。
私はお婆ちゃんが好きだ。
昔、一緒に寝たり、お風呂に入ったりしたし、入学式とか卒業式とかには必ず出席してくれたし、学生時代やOLになってもお弁当を作ってくれたりしたし、毛糸の編み方を教えてくれたし、彼氏が出来た時にはお母さんよりも先にお婆ちゃんに教えたし。
そのお婆ちゃんが認知症になったって知った時には、私は泣いた。
最近、お婆ちゃんは優しい表情になった。
もともと優しい人なんだけど、表情が前にも増して優しくなった。
それと同時に、どこかぼんやり遠くを見つめるようにもなった。
昔はこの辺の土地には何も無くて、大きな桜の木しかなくて、そこで戦争で死んじゃった旦那さんと良くデートしたり、プロポーズもそこでされたってお婆ちゃんが昔良く言っていた。
私は、お婆ちゃんがたまにフラッと外に出てってしまうのは、その桜の木を探してるんじゃないかって気がしてならない。
大好きだった旦那さんの面影が残ってるだろう桜の木を求めて、さ迷ってるんじゃないだろうか。
そうお母さんに言うと、居なくなったお婆ちゃんの事が心配で泣き腫らした真っ赤な目で睨まれた事がある。
まずった、言ったタイミングを間違えたらしい。
**************
気が付くと朝になっていた。
横には毛むくじゃらのワンちゃんがいた。
ワンちゃんの毛皮が温かく、私はそれが気持ちよく、寝てしまったらしい。
女が路地で寝るだなんて、そう思うといけない事をしてしまった事で恐くなった。
家がどこか分からなくなってしまった。
ワンちゃんとしばらくここに居ようと思った。
***************
お婆ちゃんが発見された。
警察の方が発見して下さったらしい。
何でも黒い毛の大きな犬がたまたま居合わせたらしく、その毛皮にくるまるように抱きついていた所を発見したらしい。
お婆ちゃんったら、警察官の方に対して、はしたない所をお見せしてしまって何ともお恥ずかしいと顔を真っ赤にして謝ってたんだろうな、そう想像すると可笑しかった。
その大型犬もお婆ちゃんと同じで捜索願が出ていて、見つけた時には飼い主の人が泣きじゃくって居たらしい。
何とも不思議な取り合わせ、不思議な騒動だったけれど、もうすぐお婆ちゃんが帰ってくるから、お風呂を沸かしておこう。
お婆ちゃんの大好きなおいなりさんも一杯作ったし♪
お婆ちゃん、今度の彼氏はイケメンだよ!
今度、会わしてあげるね。
きっと気に入ると思うよ。
だって、戦争で亡くなった旦那さんとどこか面影が似てるんだもの。
お婆ちゃん、その内桜の木が見つかると良いね♪
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以下、解説。
昨年末、茨城県のひたちなか市の公園内で認知症の女性が30時間振りに保護されたって言うニュースはご存知でしょうか?
( http://www.sanspo.com/shakai/top/sha200712/sha2007120800.html )
何と行方が知れなかった犬に寄り添うような形で発見されたとか。
テレビで見た時は、おそらく飼い主だった女の子なのでしょう、犬を見て泣きじゃくっていた映像が印象的でした。
暗いニュース、耳を覆いたくなるようなニュースが多い中、ボクはこの報を聞いて、ホッとしました。
何とも心が温まるようなニュースだなって。
都心の郊外、この時期は夜にもなれば気温が氷点下になる事も珍しくなく、老婆の凍死の危機を救った一匹の老犬が居たと言う偶然の奇跡、都心の近く(と言っても遠いですが)に実際に起こったファンタジーが気になってしまって。
その老婆と老犬、周辺の環境や家族は一体どんな思いで時間を過ごしたのだろうかと思うと、思わず自分なりに物語を書きたくなりました。
お気に召しましたか?
夜勤明けで意識がぼんやりとした中で書いたものですから粗が目立ちますが、どうにか読めるものにはなってるかなと・・・・・。
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近頃、ネタ切れ感が漂う当ブログ(笑)。
ネタ切れを防ぐ、苦肉の策のmixiからのネタ転用

今後もネタ切れしたらmixiから転用するかも・・・・・・・・・・。
Posted by 火の玉レッド at 22:53│Comments(0)
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